貧乏冒険者 カウス
著者:Yのひと
インデックス小説目次
 

ああ、今日はなんて良い天気なんだ。
狩りをするにも旅をするにも、もってこいのこの日和。
なのに、なのに何故俺は……この青空の下でイモの皮剥きをしているのだろう?
あぁ、恨むは我が薄い懐具合と運の無さ……か。

「カウス、それ終わったら店の床掃除頼んだぞ」

「……へーい」

貧乏は辛いっす……。


■貧乏冒険者 カウス―――――――――――


どうも。
俺、カウスって言います。
故郷の森を出て、師匠の居るこのタイデルで冒険者をしています。
小さい頃から親父の仕事を手伝っていたので、俺も親父のように一人前の狩人になるんだなぁと思ってたんですけど……。
たまたま親父の友達である師匠に武術の稽古をつけてもらった時、

「お前、なかなか素質あるんじゃね?」

とか言われて―――まぁお世辞だったんですけど―――初めて狩人の仕事以外にやってみたいことが出来たんです。
それ以来、仕事が終わると武術の稽古に励むようになり……数年後、師匠にも(とりあえず)認められるような腕前になりました。
その頃になると一人で街に行くようなことも増え、冒険者というものを知って……。
自分が世界を又に駆ける立派な冒険者になれるとは思ってもないですけど、そういうものに……憧れました。
無理を承知で親父に自分の意思を告げてみましたんです。
怒鳴られるかと思っていたら、

「若いうちしか無茶できないんだし、好きなことやってみろ」

って……。
親父の言葉に、正直涙が出ました。
旅立つ前の晩、叔父から俺の名前の由来……立派な狩人になって欲しいと願って、何処かの言葉で「弓」を意味する名前を付けて貰っていたと聞かされた時には……もっと泣いてしまったけど。
村の皆(一人不機嫌そうなのが居たが)に見送られながら森から旅立ち、晴れてこの街で冒険者として生活していくことになりました。

新しい生活が始まった頃は何もかもが新鮮で、これから起こることに期待でいっぱいでした。
でも……街での生活は思っていた以上に厳しく……直ぐに俺の前に立ちはだかるものが現れやがりました。
それはお金の問題。
街では俺が思っていた以上に金がかかる……。
それに加え、これぐらい大きな街だと冒険者をしている人も多く、なかなか仕事にありつけない。
なんとか仕事にありつけても、生活費を払うだけであっという間に金が消えてゆく……。
生活をするために小さな仕事でもがむしゃらにこなし、なんとか軌道に乗ったと思っていた頃……俺は仕事に失敗してしまいました。
そのため、元より寂しかった俺の懐はより寂しさを増し……。


―――――――――――――――――――――


「だからこーやって店の手伝いしてるんだ、こいつ」

店の常連であるクワルトが、俺を指差して一人大爆笑している。
くっそ、エプロン姿で掃除してるところを見られてるんじゃ文句も言えない……。
でもいつかシメる。

「あんまりからかうとカウス君可哀相でしょ?そこらへんにしてあげて下さいよー」

あぁ、ウェイトレスさんが女神に見える……。

「それにカウス君が働いてくれると、私もラクできるし〜」

悪魔だった。

ここは俺が寝床にしている冒険者の店「南風亭」。
タイデルでも冒険者の出入りの多く、活気のある店である。
今は昼時の混雑も過ぎ、店に居るのはマスターであるオヤジさんとウェイトレスさんと、昼から飲んだくれている盗賊のクワルト。
そして、少しでも宿代を負けてもらうために食事の仕込みから店の掃除までやっている貧乏人の俺。
前に仕事を失敗して以来、オヤジさんに頼みこんで店の手伝いをさせてもらっている。
しかしその間本業の方にはまったく仕事が無く、どんどん金が無くなっている。
このままだと宿代をまけてもらっていても、底をつくのは時間の問題だ。

「トイチでなら貸してやるよ?」

心底楽しそうに笑うクワルト。
こいつ、後で絶対泣かす。
ってゆーか、ギルドに所属するシーフが上に許可無くそーゆーことしていいのか?
からかわれながら今では日常になりつつある店の掃除を続ける。
あぁ、一体いつになったらバイトしなくて済む一人前の冒険者になれるのだろう……。

「一人前だのなんだのと言っているようじゃぁ一人前にはなってないな」

悔しいけれども仰るとおりです。

「そんなことより、掃除終わったら次の仕事頼むぞ。まだまだやることはあるんだからな」

「……へーい」

貧乏は辛いっす……。

 
インデックス小説目次